投稿日:2007-01-04 Thu
鉄塊と化す客船や冬鴎
横浜のシンボルだった山下公園の氷川丸とマリンタワーが昨年末に廃業するというので、暮れの一日、見物に行った。
両方ともすでに営業を中止しており、寒風の中にいかにも使用済みの鉄塊という感じの侘しさを漂わせていた。
豪華客船といわれた氷川丸は、時代遅れのオンボロ貨物船にしか見えないし、マリンタワーはちょっと背の高い灯台という趣で、周囲のビルに圧倒されていた。
建造物というのは、人の出入りがなくなると、こんなに荒れ果ててしまうものなのだろうか。
私の青春時代には、マリンタワーや氷川丸といえば、陽の当たる横浜の観光コースの定番で、あまりに通俗的なので、デートコースに選ぶのが恥ずかしいくらいだった。
あの頃は、吉行淳之介の『砂の上の植物群』にもマリンタワーが登場したし、氷川丸は、『繋船ホテルの朝の歌』として鮎川信夫の詩に詠われていた。
いくら時代が変わったとはいえ、港未来地区の高層ビルや赤レンガ倉庫に客足を奪われて廃業する日が来るとは夢にも思わなかった。
赤錆の浮いた氷川丸の船腹を見ていると、着飾った男女がデッキにあふれ、賑やかなジャズの演奏が流れていた、数年前の船上パーティーの光景が目に浮かんできた。
あの華やかなパーティーに参加していた人たちは、いま頃何処で何をしているのだろうと思った。

黄昏時になって、横浜のもうひとつのシンボル、ジャズ喫茶の「ちぐさ」に入った。ここも経営者が高齢のため、今年の一月で廃業するそうだ。1933年の開店で、渡辺貞夫や秋吉敏子、日野晧正といった日本ジャズ界の巨人たちも通いつめたという、73年間も続いた横浜のジャズ喫茶も消えてしまうのだ。
ちょうどNHKラジオの取材が来ていて、店内は落ち着かなかった。
リクエストしたコルトレーンの曲を聴いて、外へ出るとすっかり暗くなっていた。

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